この現場は、新潟県村上市の0.92ヘクタールの土地に2023年より造林を開始した森です。ここは、従来林業適地としてスギを育成し伐採前は60~70年生のスギ林だったところです。2022年にそれらのスギが伐採された跡地は造林・植林の予定がなく、そのままとなっていました。
現場下部には沢が流れ、斜面を上がると尾根があるという地形でした。現場周辺の植生を調べてみると、標高によって植生に違いがあり、沢沿いにはオニグルミやタモといった沢周辺を好む樹種が、尾根付近にはブナやコナラといった落葉広葉樹が、その中間エリアではケヤキが多く見つかりました。敷地全体としては、敷地の中心部に向かって緩やかな集水地形となっており、盆地状の中心部は水分を多く含んでいることがわかりました。また、クルミの食痕から哺乳類のアカネズミやニホンリスが生息している可能性が示唆されたほか、周囲の湿地で両生類のアカハライモリやトノサマガエルを確認しました。
2023年秋、植栽の準備として、まずは地拵え作業を行いました。地拵えとは、植栽しやすいよう、林内の枝葉やつるなどを取り除き、整えていく作業です。現場は伐採後、1年ほどそのままになっていたため、かなりの量の下草が生えていました。それらを刈払い(草刈り)した上で、地拵えを行ないました。
刈払いの様子
施工前
施工後
ただし今回は前述のとおり、すでに芽生えていた広葉樹の実生は切らずに残すこととしました。従来の地拵え作業では実生は全て刈り払うのが通例であり、有用樹種や好きな樹種でも刈り払わなければいけないことにやるせなさを感じていましたが、今回の作業では実生一本一本を見極めながら残したい樹種を残すことができて非常にやりがいがありました。従来の地拵え作業よりも時間も手間もかかってしまうものの、多様性の高い森づくりにつながる有効な手段であると感じました。
残したホオノキの実生
地拵えが完了すると苗木を手配し、いよいよ植栽を行ないます。スギに関しては「コンテナ苗」といって、根鉢(植物を鉢から抜いたり、庭から掘り上げたとき出てくる、根と土がひと塊になった部分)が筒上に形成された苗が流通しており、専用の器具で穴を開けて入れていくことができます。一方オニグルミの苗木は、根が自由に伸び、土などがすべて取り除かれている「裸苗」しかありません。そのため、鍬を使って穴を掘り、ひとつずつ植えていかなくてはなりませんでした。